ふるさとだより


ある母親の話①

サンケイの【夕焼けエッセイ】に掲載された、大阪府岸和田市の西川和子さん(78歳)のお話です。
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“私は子供に恵まれなかった。
結婚して15年目に縁があって、義弟の次男を養子として迎えることになった。
生まれて20日目の赤ちゃんを胸に抱き、馴れない手でミルクを飲ませ、おむつを替えた。
その後も無事に育ってくれて、桜の咲く小学校に入学した。
運動会や保護懇談会にも出席し、親としての喜びを体験させてくれた。
担任の先生は、「彼が結婚するまで、養子であることを知らせずに成長してほしいと思います」と言ってくれた。
大学受験の時には深海の魚のように重圧を感じて心配したけど「桜咲く」結果で心から喜んだ。
その息子は今、39歳を迎え、小学校5年生と2年生の娘の父親として一生懸命に頑張っている。
私の夫は5年前に世を去り、一人暮らしの私を会社帰りに毎日訪ねてくれる。
「お母さん元気か?寒いから気いつけや」と一言。私は心を込めて一杯のコーヒーをいれ、息子に黙って差し出す。
13年前息子が結婚する時に、意を決して養子であることを告げた。突然のことに息子は愕然となり、ぽろぽろと大粒の涙をこぼした。
しかし一晩明けた朝、
「お母さん、昨夜いろいろ考えたけど、僕はやっぱりお母さんの息子だよ。 今まで通りだよ」とにっこり笑った。
寒い日も雨の日も毎晩訪ねてくれる息子を玄関まで見送りながら、その後ろ姿に「ありがとう。年老いた私には、あなたの家族が生きる支えだよ」と胸いっぱいの感謝を込めて手を合わす。明日もまた頑張ろう。

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