“八ヶ岳の麓にある高校。かつて、この高校は荒れていた。生徒数180人のうち、4割近くが不登校経験者。毎年退学者が30人を超えていた。12年前、一人の生徒が自殺した。いじめが原因だった。教師達はここから変わろうともがき始めた。生徒の死を隠さなかった。毎年、命日に全校集会を開き、自殺した生徒の手記を読んで冥福を祈っているという。変わるためには、事実を直視することが大事。・・・2005年、4人の生徒が暴力沙汰を起こした。4人は退学処分になりかけた。だが、彼らの話を良く聞いてみると、先に手を出したのは相手であることが分かった。4人ともとても反省している。学校を辞めたくないとも訴えた。退学させるのはたやすい。職員会議で、「やめさせずに指導をしていきたい。」「今の高校なら、彼らを立ち直らせる力が十分にある」という声が出た。全校集会で事件の経緯が報告され、校長が4人の生徒を「退学させない」と告げた時、全校生徒から自然に拍手が湧き起った。教師と生徒の垣根が一つなくなった。生徒達が教師を、大人を信頼し始めていた。
この高校では、それまでずっと、教師が二人一組となって校内パトロールを続けてきた。喫煙や校内暴力、いじめをやめさせようと始めたことだったが、これをきっぱりやめることにした。先ずは、教師が生徒を信じようーそう思ったのだと言う。・・・やがて、教師と生徒の関係がどんどん変わりはじめた。まわりから信じられると、人は変わりやすくなる。信じてもらえれば誰だって嬉しい。期待に応えたくなるのだ。暴力もいじめも少しずつ減っていった。
その年の9月、3年生の女子生徒が突然学校に来なくなった。教師や同級生が何度も家を訪ねたが、顔も見せない。でも教師はあきらめなかった。会ってもらえなくても、返事が返ってこなくても、ドアの向こうにいる彼女に語りかけ続けた。・・・・(略)・・・・・あきらめなければ人は変わる。熱意が、真摯な想いが人を変える。だが、卒業するには出席日数が足りない。女子生徒を卒業させるかどうか、職員会議で議論になった。結論は「卒業させたい」。・・・なんとか卒業できるよう、教師達は彼女に最低限の授業を受けさせるため、特別授業のスケジュールを組んだ。特別授業は3月半ば過ぎまで続いた。同級生達は3月3日に卒業式を終えていた。3月25日、一人残された女子生徒のために、もう一つの卒業式が行なわれた。本当の卒業式と同じように進んだ。校長先生が挨拶し、来賓の祝辞が読まれた。そして担任の教師がお祝いの言葉を贈った。・・・(略)・・・たった一人のため卒業式に、ほとんどの教師が駆けつけた。30人ほどの同級生も集まった。一人ぼっちじゃないと、女子生徒はわかった。教室の仲間を信じられるようになった。
もう、人生の途中で大波が来ても大丈夫。彼女の心に「人は変われる」という信念が、あたたかな涙とともに刻み込まれた。みんなに祝福される中、彼女は泣きながら、胸を張って巣立っていった。”
夕べ寝る前に読んでとても感動したので、 鎌田實著『人は一瞬で変われる』より抜粋。