NHK『きょうの料理』や日本テレビ『キューピー3分クッキング』をはじめ、数々のテレビ番組や雑誌で人気を博した
日本料理研究家の鈴木登紀子さん。
料理教室を50年以上にわたって続け、日本の伝統的な家庭料理を広く伝えています。
そんな鈴木さんは、今忘れ去られつつある料理の心は「美味しいお料理は真心と慮りから」と仰います。 鈴木さんの記事を以下に紹介します。
<〇鈴木 私は「食育」っていう言葉は嫌いよ。だって、いくら食で教育だって口で言ってても、実践してこそのものでしょう。食を通じて子供を育てることが廃れてきたから、そういう言葉が出てきたんでしょうね。
いまは家族で食事がバラバラだけど、昔は何があっても家族みんながちゃんと揃って食べていたの。
──そこで躾もなされていたと。
〇鈴木 そうね。お箸の持ち方やお行儀のことも全部そう。
いまは時代が変わってしまいましたが、週に何回でもいいから家族揃ってご飯を食べられるように頑張ってほしいわね。
だって、みんな揃っていただくって、幸せなことでしょう。
──お料理をつくる上で大切にされてきたことはありますか。
〇鈴木 いつも相手を慮る(おもんばかる)こと。
例えば夫は喘息持ちでしたから、調子が悪そうな時にはなるべく本人が食べやすいものを心掛けました。
それから若い時分はとても贅沢なんてできないから、できる範囲でいかに美味しく食べさせるかってことを
いつも考えていました。
子供たちには好き嫌いがあるから、もちろん工夫は必要よ。
──そうやって家族のことを思いやってこられたんですね。
〇鈴木 だっていまみたいに何でも外で出来合いのものを買って食べさせるだけじゃ寂しいでしょう。
いまは生徒さんを対象に、いかに美味しい状態でお出しするかということを常に考えているの。
だから生徒さんたちがお取り回しの時などに、手際が悪いとうるさく言います。
「あなたたちは私が死んだらきっと分かるわよ。あの時あんなこと言われたけど、そういうことだったのかって」
と、いつも言っております(笑)。
お料理はね、真心と慮りなの。
──真心と慮り。
〇鈴木 そう。
家庭においては、旦那さまや子供に美味しいご飯を食べさせてあげたいという、その心が何よりの御馳走なのですよ。
いまは日本中で食べ物が氾濫しているでしょう。
そして食べきれないものはどんどん捨てられている。もったいないことよね。
だって世界中には飢えている人がいっぱいいるのですから。
生きるためには食べることが大切。食べることは生きることでしょう。
その当たり前のことを、私たちは忘れてはいけませんね。>