日本の迎賓館として開業した帝国ホテル。120年以上の歴史を持つ帝国ホテルには、
先輩たちが培ってきたDNAがいまも脈々と受け継がれているといいます。
そのDNAが見事に発揮されたのが2011年3月11日に起きた東日本大震災だったそうです。
当時の状況を、帝国ホテル社長定保英弥さんの振り返りの記事があったので紹介します。
“「帝国ホテルの現場力」定保英弥(帝国ホテル社長兼帝国ホテル東京総支配人)
私が東京総支配人を拝命して2年、帝国ホテルの開業120周年を祝す宴会が行われたその日に発生したのが、
2011年3月11日の東日本大震災でした。これは私の人生の中でも、最も厳しい局面でしたが、同時に、帝国ホテルに脈々と受け継がれてきたおもてなしのDNAをより強く実感できた貴重な機会ともなったと言えるでしょう。
震災発生後、交通機関は麻痺し、帰宅できなくなった約2,000名の方々が帝国ホテルのロビーに避難してこられました。
私は総支配人としてすぐに危機対応のオペレーションセンターを立ち上げ、現場を指揮する態勢を整えました。
しかし、そのような中で、何よりも私が驚いたのは、細かな指示をしなくても、従業員たちが自ら率先して、避難してきた お客様に毛布や備蓄用の飲料水や乾パンを用意したり、携帯電話の充電器をフロントに並べたりしている光景でした。
翌朝には「少しでもお客様の体を温めることができれば」と、館内で一夜を明かした方々に
野菜スープを振る舞うこともできました。
実は、1923年の帝国ホテルライト館開業当日も関東大震災に見舞われたのです。
その際にも、幸い建物に大きな被害はなく被災者のために炊き出しをしたり、新聞社や大使館関係者に部屋を
提供したりしたという記録が残っています。
そのような諸先輩方が積み重ねてきた現場力、おもてなしのノウハウが、現在に至るまでDNAとして脈々と受け継がれて きているのを、私は東日本大震災の際にはっきりと感じることができたのです。
このDNAを次の世代にしっかりと引き継いでいかなければならない──。
折しも、帝国ホテルが130周年を迎えるのは、東京オリンピックが開催される年。
もともと帝国ホテルは日本の迎賓館として開業したといういきさつがあります。
私の責務は、まずその2020年に向けて、いま一度、帝国ホテルのDNAを受け継いでいける
人材の育成に尽力していくことだと思います。”