大学教授と会社社長という二足の草鞋を履きながら、日本を健康長寿の国にしようと挑み続ける久野譜也(筑波大学大学院教授 医学博士)氏。筋トレの普及から始まった改革は、現在街づくりまで拡大しているという。その活動を支援してきた筑波大学名誉教授村上和雄さんとの対談を紹介します。
《【村上】歩くということがいかに大事かということですね。
【久野】歩くのにも当然筋肉を使いますからね。ただ筋肉というのは、30代から加齢によって萎縮が始まります。
そして40代以降は何も手を打たずにいると毎年1パーセントずつ減っていくんですね。
昔は平均寿命が短かったので大した問題にはならなかったのですが、高齢化社会になるとこれが切実な問題になってきました。やはり生き甲斐を持った人生を全うするためには、自分の意思で動けることが必要条件の一つであって、
それを担保するのが筋肉なんですよ。おまけに筋肉というのは非常によい臓器で可塑性(かそせい)がある。
【村上】鍛えれば幾つになっても増えるわけですね。
【久野】そうなんです。だから幾つになっても遅くはないんですよ。
2009年にWHO(世界保健機関)が「死亡原因ベスト20」というのを発表していて、
1位は高血圧、2位はたばこで、3位が糖尿病、何と4位が運動不足なんですよ。ちなみに5位は肥満です。
これは認知症でも同じことが言えて、運動不足だと認知症になりやすいというデータが最近出ました。
やはり人間というのは、基本的に動くという前提でいろいろな機能が備わっているのに、科学技術の発達とともに
動かなくなったアンチテーゼが、いまこうして生活習慣病や認知症という形になって表れていると考えられます。
【村上】体を動かすことが大事であることは誰もが知っていても、それを義務感だけではやれないと思うんですよ。
そこに何か楽しみというか生き甲斐がないと。
【久野】何もアスリートみたいな運動をする必要はなくて、先生のおっしゃるように生き甲斐とか人との関わり、
そういったものがうまく絡み合って健康寿命というのは伸びていきます。
【村上】80歳になって少々体が不自由なんですけど、僕にとっての生き甲斐は人に喜んでもらうとか、希望を与えることかな。
【久野】健康長寿の秘訣には三つのキーワードがあって、それが運動と食事、そして社会的役割です。
つまり村上先生のように社会的役割を持ち続けている人ほど、健康度が高いというデータも出ているんですよ。(以下略)》